メトードローズOp.1-9
書類作成に追われる。世界各国から若い音楽家が
受験に来る。受験といってもマークシートとか、2次試験とかはない。
面接が主で、話の流れで、「じゃあバイオリンのこのフレーズ
弾いてみて!」みたいな感じである。
日本の受験生は面接形式が始めての人が多いので、
面接官と受験生の噛みあわなさが、なんとも
ほほえましい。通常、握手して簡単に自己紹介
した後、自分はこういうことを考えている、
こういう研究をしたい、などと主張するのだが、
日本の受験生は深くお辞儀をした後、だまって
面接官のアプローチを待つ。
面接官が??となったあと、
「今日は何かお話したいことないの?」
と聞くとびっくりしたように話し始める。
「えっと、自分は○○高校で、○○部でした。
特技はピアノで○○コンクールで3位でした」
日本の子って与えられた課題
に対して極限までまじめに取り組むのだけれど、
自分はこういう人間で、こういう生き方をしたい
みたいなことを普段あまり考えない。
推薦書(内申書)に書いてある高学歴、好成績、
おとなしくまじめな性格・・・なので合格希望・・・
みたいな無言のアピールをしたりする。面接官も困ってしまう。
マエストロカッシャ―は私のほうをみて、
「野田さん、後は頼んだ」と言うとマエストロは
自室からタタタっと逃げるようにでていってしまう。
ちなみに私が院生の面接試験を受けたときは
面接官とあいさつをし終わって2,3秒の
間があったとき、相手が話してこないということは
自分が話し始めないといけないのだなと思い、
さらに、自分が話し始める以上、過去のことではなく
未来のことを話したほうが良いな、
などとなぜかこの仕組みに一瞬で気づいてしまい、
普段考えもしない自己アピールをした。
「自分は日本人なので、新しい精密な楽器を作りたいです。
秋葉原などで部品を集め、絃は馬のたてがみではなく
人間の体毛をつかいたいです。鼻毛やすね毛やケツ毛などで高音を表現し
浅野温子のストレート毛で低音を表現するような楽器です。」
面接官は肩を上下に振動させて笑っていた。テストは受かった。
こういう変な空気を読む能力は
今の日本の教育で培われたものだと信じている。
そして楽器など作ろうとしたこともないし作る予定もない。